フランス旅行最終日、パリのAirbnbで日本のニュースサイトをチェックしていた。
『シャンゼリゼの高級ホテル前で、日本人実業家が9000万円の高級時計を盗まれる』という一行に目がいく。ホテルの前でタバコを吸っていたところ、タバコを一本くれと近づいて来た男に腕にはめていた時計を盗まれたという。
あああ、被害に遭った日本人実業家は油断していたのか、それとも人が良いのか。。。?
何となく、他にもパリでは盗難がよくあるのか、と気になって検索したところ、ゴロゴロと出て来た。
最近多いのは、『四、五人の若い女性グループがアンケートと言って近づいて来て、油断をさせている間に貴重品を盗む』、というもの。
フランスに来てから12日目、幸いなことに一度も盗難や、嫌な目に遭っていない。
明日は帰国する日だから、あと一日気を許さず無事に日本に帰ろうと決心して、寝る。
翌日、凱旋門側のバス停から出発する空港バスに乗るために、朝七時にAirbnbを出る。
地下鉄の狭い改札ゲートで荷物が引っかかり悪戦苦闘していると、親切なお姉さんが、ゲートを足で開けたままにしてくれて、通ることができた。
地下鉄の駅から地上に出てバス停を目指すが、昨日ネットでチェックした地図より実際は遠いのか、なかなかバス停にたどり着かない。やはりスマホのGoogle mapを使えないと、不便だ。ケチラないで、海外でも使える契約にしよう。
前を歩く人の良さそうな紳士に空港行きのバス停を尋ねると、自分もそっち方面に行くからと、親切なことに一緒に歩いてくれた。
バス停には10名くらいの人が待っていた。
朝日に輝く凱旋門を「あー、パリにいるんだな」としみじみ感慨しながら眺めていると、五人の少女グループが近づいて来て、『アンケートに答えて』と英語で言い、回りをぐるっと取り囲んだ。
「――これって昨日ネットで読んだ盗難集団?」と、ぞーっとする。
五人は15、16才くらいで、ごく普通の少女達に見えた。皆、自分より背は低いが、囲まれると圧迫感があり、泥棒だと知っているから、尚更焦る。
とっさに「何を言われても無視して、反応しないこと」と決心する。すぐにパスポートや財布など貴重品が入った斜めがけのショルダーバッグを前でしっかりと抱きかかえ、視線を合わせず、あっち方向を見る。
泥棒集団:「Do you speak English?」
自分: 完全無視。視線を合わせず、あっちの方を見続ける。
少しすると、諦めたのか、泥棒集団はさーっと離れて行った。
前を見ると、泥棒集団が離れて行く時に腹いせにわざと倒して行ったのか、倒れていたスーツケースを、すぐ前にいたカップルの男性が親切に立てかけてくれ、気のせいか同情の目を寄せた。
「ひやー、危なかった。。」無事に済んで良かった。ほっとした。
もし、昨日ネットで『アンケート泥棒集団』のことを読んでいなかったら、うっかり気を許して、貴重品を盗まれていたかも知れない。
でも、まさか自分の前に本当に現れるとは、もの凄いショックである。
海外旅行が趣味で、今まで行ったのは45ヶ国。だが、中南米やアフリカなどの危険そうな所は避けてきた。NYやLAやシカゴなどにも行ったけど一度も危ない目に遭ったことはない。
パスポートや、クレジットカード、帰りの航空券などは、つい最近までストッキングに入れてお腹のあたりに巻き付けていた。
財布を盗まれたのは、イタリアのフィレンツェで一度。その時は現地で知り合った日本人女性五人でマーケットへ行き、買物をして財布を出し入れしたから、泥棒に財布の在処をしっかり見られて狙われたのかもしれない。あれ以来、バッグは常に斜め前掛けにするようにしている。
イタリアでの油断による盗難を除けば、なぜ今まで盗難に遭わなかったのか自分で分析してみると、おそらく泥棒にとっては『価値のない人』だったのだと思う。
泥棒が狙うのは、お金がありそうで、油断している人。お金がありそうか、なぜわかるかというと、高そうな服、アクセサリー、時計、バッグなどを身につけているから。
自分は海外旅行に行く時は、大体(わざとかな?)カジュアルな格好で行く。パーカー、ジーンズ、スニーカーで、バッグはもう20年くらい使っている安いショルダーバッグ。
どうみても、お金がありそうには見えない格好だ。一番最初にアメリカに行った時は、わざと膝が擦れたパンツをはいて行ったほど。
そんな格好だと、泥棒除けになっていいのだが、もちろん、デメリットもある。
1.良い格好をしていないので、いろんなところで(ホテル、航空カウンター、
レストラン、店)良い待遇を受けない。
2.良い男性との出会いはあまり見込めない。(貧乏そうな格好の外国人旅行者に、素
敵な男性が寄って来るわけがない)
今までの旅行で、質素な格好でのデメリットは何度も実感した。極めつけは、アメリカ本社への出張で、ウエスティンホテルを日本で予約していたのだが、現地フロントで名を告げると、『そんな予約は受けていない』と、若いフロントスタッフににべもなく言われた。
「じゃあ、あらためて今予約したい」と言うと、『今日は満室だ。近くのヒルトンホテルへ行けば』と、冷たく言われた。
この時の自分は、簡単なシャツにジーンズ、スニーカー。シカゴだし、怖いからと、出張なのにいつも通りのカジュアルな格好。でも、アメリカ人は大体ジーンズにスニーカーだ。もしかすると、人種差別か?と、気分が悪くなった。
ヒルトンには問題なく泊まることができた。
日本に帰ると、泊まってもいないのにしっかりとウエスティンホテルはクレジットカードにチャージしていたので、やはり予約はあったわけだ。ウエスティンホテルのカスタマーサービスに苦情を言って、返金してもらったが、この時はもっとましな格好をしていれば、あのフロント係の対応が違っていたのか?と、まじですっごく嫌な体験をさせられた。
こんな感じでカジュアルな格好による弊害は、思い起こせばいろいろあった。
でも、カジュアルな格好だったから、悪いやつらに狙われることもなく、今までどこへ行っても無事に帰って来ることができたんだと思っている。
ではなぜ、パリでアンケート泥棒集団に狙われたかというと、その時はいつもよりましな格好をしていたからだ。
さすがに年をとってきて、いつものカジュアル路線にそろそろ飽きていた。それに、今日はパリ市内を歩くわけではなく空港へ行くだけだからと、レザージャケットにスカーフ、スカートと、自分にとってはアップグレードした服装をしていた。
そのせいで、地下鉄では親切なお姉さんが助けてくれて、紳士に道案内をされたと思っている。でも、最後に泥棒集団に遭遇したんじゃ、割にあわないけどね。。
「良い格好をして良い待遇を受けるが泥棒に遭う」か、「質素な格好で良い待遇は受けないが、無事に帰って来るか」、自分にとっては思い悩む永遠の課題である。
さて、次回はどっちの格好でいくか?